研究開発
環境にやさしいコンクリート
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PC構造物のCO2削減対策の一つとして、高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの混和材を用いたコンクリートの適用が求められています。また、混和材を用いたコンクリートを採用することで、塩分浸透抵抗性、中性化抵抗性、凍結融解抵抗性などの耐久性の向上も期待できます。 一方で、混和材を用いたコンクリートは初期強度が小さくなるためPC構造物への適用実績は少なく、耐久性の評価も十分に整備されていないのが現状です。上記問題の解決に向けて、配合や養生方法をパラメータとした各種試験を行いPC構造物への適用を目指した研究開発を行っています。 |
ひび割れを抑制したコンクリート
コンクリート構造物の耐久性と信頼性を確保するために、収縮ひび割れを制御・抑制する対策が求められています。コンクリートの収縮ひび割れを抑制する材料として、収縮低減タイプAE減水剤[チューポールLS-B]、高機能仕上げ補助・初期塗膜養生剤[キュアキーパー]、耐久性向上養生剤[キュアブリッド]などを開発しました。さらに、ガラス繊維ネットや膨張材、塗布型収縮低減剤などの既存の技術についてもひび割れ抑制効果を確認し、ひび割れ抑制によるコンクリートの耐久性向上に向けた技術開発を行っています。 |
コンクリート打継面処理技術
新旧コンクリートの打継目は、一度に施工したコンクリートに比べて引張強度が小さく、水、塩化物イオン等の劣化因子が侵入しやすい部位です。そのため、コンクリートの打継目は、適切な処理を行って耐久性を確保することが求められています。 一般に、打継目はコンクリートが硬化した後に、チッピング等による目粗し処理が行われますが、品質に差が生じたり、施工が煩雑となっています。そこで、遅延剤の成分に改良を重ね、まだ固まらないコンクリートに浸透させた場合に、表面付近のみ、高圧洗浄程度の施工で均等な目粗しを可能にする処理剤の開発を行いました。 開発した打継処理剤[エコシック]は、コンクリート上面への散布タイプと、型枠への塗布タイプがあります。さらに、塗布タイプには、塗布性に優れる樹脂タイプと、環境に配慮した水性タイプがあります。 |
腐食モニタリング技術
塩害や中性化によるコンクリート構造物の劣化では、一般には目視点検によって発見されてから補修・補強が行われます。これでは、事後保全となって費用および労力がかさみ、再劣化のリスクも増加するため、予防保全を可能にするモニタリング技術が求められています。 構造物の鋼材を直接モニタリングする方法もありますが、本体の鋼材が腐食してはじめて劣化が判定できるため、結局、事後保全となります。そこで、塩害の促進試験を行い、鋼材腐食を予測できるモニタリング技術の開発を試みました。 開発したセンサは、かぶり部分に配置でき、深さ方向に順次腐食環境を検知できます。これにより、構造物本体の鋼材の腐食時期を予測でき、予防保全が可能となりました。また、遠隔モニタリングシステムを利用すれば、点検の手間が大幅に軽減できるとともに、足場などの設備が不要になります。 このセンサは、これまでに7橋の橋梁において使用実績があり、遠隔モニタリングも実施されています。 |
残存プレストレス推定手法
プレストレストコンクリート構造物の維持管理において、プレストレス力の作用状態を把握することは重要ですが、簡便で精度の良い方法が無い現状にあります。 これまで、応力解放法などいくつかの手法が試みられて来ましたが、コンクリート特有の経時的塑性ひずみの評価が難しいため、所要の精度が得られませんでした。 そこで、長年にわたるクリープ・乾燥収縮に関する基礎試験の知見を活かし、鋼材拘束に関する要素試験と検証試験を加えたことで、難問を解決しました。 応力調査の対象個所に、2方向のひずみゲージを貼り付け、コア削孔によって解放されるひずみを測定します。さらに、測定結果を提案する算定式に代入することで、知りたい有効応力を取り出すことができます。 なお、本技術はその業績に対してJCI論文賞(2010年度)を受賞しました。 最近では、コアの切り込み深さを浅くすることで、構造物へのダメージを軽減した改良手法を提案し、これまでに3件の実績があります。 |
プレキャスト部材の接合技術
プレキャスト部材の接合方法のひとつに、鉄筋の重ね継手構造があります。通常の重ね継手では、接合部が長くなり、プレキャスト部材の利点である現場作業の省力化と相反するため、より簡便な構造が求められています。 そこで、鉄筋先端に鋼管を圧着させたエンドバンド鉄筋を用いることで、鉄筋の付着力と鋼管の支圧力による複合効果から、定着長を短くした新構造を考案しました。 検証実験では、エンドバンド鉄筋の付着性能、継手構造を有する供試体の静的曲げ性能、押抜きせん断性能および輪荷重試験による疲労耐久性能について確認しました。 そして、塩害S地区対応として、エンドバンド鉄筋をエポキシ塗装した接合構造の検証を加えたことで、適用範囲がさらに拡大しました。 開発した接合構造は、重ね継手構造に比べて接合区間を大幅に短くした簡便な構造で、疲労耐久性等に優れるため、鋼道路橋RC床版の取替床版工法等への適用事例が増加しています。 なお、本技術は[SLJスラブ工法]としてNETIS登録技術としても活用されています。 |
中間定着工法
既設PC部材の一部を解体、撤去する場合、プレストレスを保持するための定着具を追加する必要があります。この定着具はPC鋼材の中間に設置されるので中間定着具と呼ばれており、コンパクトで十分な定着性能を有することが求められます。 長崎大学と共同開発した中間定着具は、静的破砕材を改良した膨張材をPC鋼材と鋼製治具(箱型または円筒型)の隙間に充填することで、所要の定着性能を確保します。定着能力は30トン程度/本で、定着時のプレストレス損失がありません。博多駅の改修工事で採用されました。 |
電気化学的補修工法
ニッケル被覆炭素繊維シートを用いた電気防食工法では、陽極材およびそれを取り巻く電解質(バックフィル)の耐久性が重要となります。本工法では、バックフィルをアルカリ性のゲル状に加工することで、通電期間中のイオン伝導性が格段に向上しています。また、バックフィルに含まれるリチウムイオンは、アルカリシリカ反応(ASR)の抑制にも寄与する可能性があることを確認していますので、ASRが懸念される構造物への適用も可能です。 |
PCグラウト技術
PC構造物にとってグラウトはプレストレスを担保するPC鋼材を腐食から守る重要な役割を担っています。そのため、グラウトをPCケーブルのダクト内に確実に充填する高い技術が求められています。当研究所では、材料・施工・検査の各面から技術開発を行っています。材料面では、ノンブリーディングで高い充填性・緻密性を有し、品質の安定した超低粘性型のプレミックスグラウト材を太平洋マテリアル㈱と共同で開発しています。施工面では、実物大実験による注入方法の検証や真空ポンプを併用した注入方法の検証を実施しています。検査面では、ITを用いた注入管理や残留空気を定量的に判定する検査方法の開発に取り組んでいます。 |
コンクリートの温度制御技術
コンクリートにおける温度の影響は極めて重要であり、コンクリート温度や養生温度を適切に管理しないと強度や耐久性などの品質の低下を招くことが懸念されます。そのため、当研究所では様々な場面でのコンクリートの温度制御に関する技術開発に取り組んでいます。当社の主力であるPC橋梁やケーソンではマスコンクリートとして施工する場合も多く、温度ひび割れを抑制するためにより効果的なパイプクーリングやエアクーリングに関する開発を行っています。また、PC工場で高温の蒸気養生により製造するプレキャスト製品では、[保温エコシート]や温度追随養生装置を用いた適切な強度管理と効率的な養生管理をすることで高い品質保証とCO2を削減した製造を目指しています。 |
耐震補強技術
予想される大規模地震への備えとして、橋りょうの橋脚やマンション、学校など、既設構造物に対する耐震補強が急務となっています。耐震補強工法を行う場合、作業空間の制約や大掛かりな仮設備が必要となることが多く、施工性に優れ経済性の高い工法が求められています。 [ピア-リフレ工法(曲げ補強仕様)]の開発では、フーチングへのアンカー定着について、ウォータージェットによる削孔試験や接着剤の充填試験など、実構造物を模擬した試験体を用いて施工性能の確認試験を行いました。また、所要の耐震性能は、実物の1/5スケールの試験体を作製し、正負交番載荷試験によって確認しています。 [ORS外フレーム工法]は、フレームを構築するプレキャスト部材を、バルコニー下に打ち込むコンクリートを介して既設建物と接合します。このため、コンクリートの充填性が重要となりますが、実物大の試験体を用いたコンクリート充填確認試験を行うことで施工時の課題を明確にし、品質確保に貢献しています。 |